【まとめ】ゲームクリエイターが多数参加するリレー小説×音楽プロジェクト「LOST SPRING」のテキスト一気読み!! 第1話~第十七話まで、まとめました!!(追記:最終話までまとめました)

2020-09-14NEWS,まとめ,ゲームアプリ,ゲームレジェンド,家庭用ゲーム,新型コロナウイルス関連,音楽

 音楽家の矢内景子氏、そしてプロデューサー島津真太郎氏によるプロジェクト「LOST SPRING」は、『ドラクエ』の藤澤仁氏、『逆転裁判』シリーズの山﨑剛氏など、多くのクリエイターがつないで来た物語に音楽やナレーション、映像も組み合わせ、物語を堪能できるエンタメプロジェクトだ。
 が、そもそもの”リレー小説”の部分を一気にテキストで読みたい! という欲求はないだろうか。っていうか、俺はあります! っていうことで以下にまとめてみました。

(2020.9.5 追記)

 その後、同企画は、ゲームDJとしておなじみの安藤武博氏、さらには毎週楽曲を作曲している矢内景子氏が十二話を執筆し、そして『陰陽師』のシナリオを手掛けた下村健氏、ゲームに限らずアニメや映画も手掛けるイシイジロウ氏、アニメ好きで知られるサイバーコネクトツーの松山洋社長も参戦するなど、豪華なメンバーが参加する巨大なプロジェクトに成長していた。

 一方で、本当に物語が終わるのか!? という心配も一部ではささやかれていたかもしれない…中で、物語の発端、第1話を執筆した藤澤仁氏にリレーのバトンが戻ってくるという展開に。すると、藤澤氏は3週分の時間と文章量を使って、きっちり物語を完結させることを宣言。そして、ついに来週、物語は結末を迎えることに…!! 

 という佳境を迎えた今、来週に備えて、今までの物語を一気読みしておくとよいかしれない!! ということで、途中までまとめてあったテキストに、以降に発表されたテキストを追加して、最終回の1週前までの物語をまとめました。

 以下、テキストを一気読みしたい人はどうぞ!!

(2020.09.14 追記)

 最終話18話までのテキストを掲載しました。

LOST SPRING の小説部分を一気に読みたい!! まとめ

第一話 藤澤 仁(@JIn_Fujisawa


喉の奥の痒さに耐え切れず咳き込むと、空から大量のナイフが降り注いでくる ナイフは、周りにいた僕の大切な人の脳天に次々と突き刺さり、鮮血を噴き上げる 目の前で微笑んでいたアキラが、僕を凝視しながら崩れていく 僕は悲鳴を上げて目を覚ました。 気分は最低だ。こんな朝が、もう何日目だろう


マリンバの音色に呼ばれて、僕は慌ててスマホの応答ボタンを押した スクリーン越しに微笑むアキラの笑顔。思わず嗚咽が込み上げてくる そんな僕の様子を一つも気にかけず、アキラは淡々と話す 「カテドラルが見つかった」 そう、淡々と。いつも通り それで僕は、こう悟ったんだ 冒険が始まったと。

第二話 山﨑 剛 (@take_yama06


外の空気を吸おうと、僕は窓に手をかけた。 「旧世紀の衛生観念には呆れ果てるね」 アキラの声に、ぴたりと手を止める。 「時代がちがうんだよ」 「敵はどこにでもいる。カテドラルが守られたのは、隔絶された聖域だったからだ」 「君のように?」 「そう。こちらでは公衆衛生がすべてに優先する」


僕は、アキラのいる無菌チェンバーを思う。 誰かに会うことも、触れあうこともない。完璧なセキュリティ。 ――もう一度、彼女に会いたい。 僕のこの気持ちすら、未来では罪になるのだろうか? 「コードが見つかったわけだ」 「ああ。今から“潜る”ぞ」 そうだ。僕らは共闘できる。たとえ離れていても

第三話 下川輝宏 (@shimoteru


あの巣ごもりの時代が仮想空間を飛躍的に発展させた。僕の意識が降り立ったのは2019年の懐かしき東京。待ち合わせに選んだのは人通りの多い交差点で、当時の慣例に従い犬の像を目印にした。頭上のディスプレイにカテドラルが映されるが、コードを持たない人々は聖域の外から祈るしかなかった。


神様を信じない僕にも神様は優しくて、手を合わせれば瞼の裏側で寄り添ってくれる。孤独な夜の不安を和らげる抱き枕のように。これまでも無力な人類は祈る事で恐怖という病魔に耐えてきたのだろう。 「天に祈る――それは人が発明した最高の薬の一つだよ」アキラのアバターが犬の像の前に姿を見せた。

第四話 たちばな やすひと(@yasuhito1214


センター街をアキラと歩く。今やオフラインでの立地に意味はないが、当時は違った。ゲートを目指しながら、2人で最後にここを歩いた時を思い出す。誰も嘘をつかなかったエイプリルフール。こんな時だからこそと言って小さな嘘をついたアキラの横顔。その嘘を僕はどうしても思い出せない。


ゲートが迫ってきた。やがてカテドラルと呼ばれるその場所に、なぜ被害が及ばなかったのかその理由は分かっていない。しかし「プロフェット(預言者)」と呼ばれた男の登場によって、あの日そこは聖地となったのだ。なぜ僕らは気づけなかったのだろう。それが本当の悲劇の始まりだということを。

第五話  小川陽二郎 (@ogawayojiro

⑨ 
目の前の高台にいる男が、預言者と名乗り、ゲートの前で宣言した。 「来年から、世界中で数百万という人間がウイルスにより亡くなる」 周囲のNPCはざわついている。 「ウイルスが撒かれた様子は?」 「今のところ……ないね」 この愛する仮想空間で、勝手な真似は許さない。僕たち以外は!

⑩ 
書き込みによると、これから始まるのは旧世紀に起った大災害を模倣したウィルスによるハッキングだ。 突如、遠くで悲鳴があがり、プレイヤーキャラクターが倒れた。となりのNPCたちの顔の描画が崩れ始めている。 「あれだ!」 アキラはそういうと、人垣をかきわけて飛び出していった。

第六話  草下シンヤ (@kusakashinya


捕えた男は典型的なワクチン欠乏症だった。こけた頬、パサついた髪、黄ばんだ肌…。暴れる男の上着をはぎ取ると、肩に刻まれた幾何学模様のデジタル代紋が現れる。 「早くしろ!」 アキラから声が上がり、僕は掌に刻まれた模様を重ねる。しかし、コードは一致せず、男はポリゴンになって崩れていった。


カテドラルの扉は今回も開かなかった。 「1分で通信を遮断します」 空間に電子音声が響き、アキラは聞いた。 「ワクチンの追加は?」 「次回にしよう」 目を覚ますと閉塞的な自室のベッドの上だった。唇を噛む。次回はカテドラルに入り預言者が告げた“最初の人”に会わなければ。世界をやり直すために。

第七話 浅井 大樹 (@HirokiAsai_0201


カテドラルの預言者は語る。 “最初の人"が暗号世界に誕生したのは旧世紀、1988年。 彼(あるいは彼女)はひっそりと、現実に近しくも決して交わることなく世界のどこかに在り続けた。 転機は2019年の末。人々が年の瀬に浮かれる中、彼/彼女に神託が下され、そして世界は反転した。


新世紀以降、静かに開錠を待つカテドラルの扉。数々のコードが試されたが正鍵にたどりついた者は皆無。 解かれぬ論理矛盾に両世界は蝕まれ、 「――」 名を呼ぶ声に思考が止まり、振り返る。 碧く澄んだ3つの瞳、深く黒々とした毛並み、そして凛とした"声"。 「出番。ヨルが来る」

第八話  桑原理一郎 (@moon_song


“使者"…!? 目にしたのは初めてだ。 絶滅したニホンオオカミを思わせる漆黒の獣。 何やら意味ありげにある方向に視線を向けている。 “ヨル"という言葉に戦慄を覚える。 「世界に数度、ヨルが訪れる。  それは破滅を加速する大波…」 確か預言者の言葉だ。 視線を上げると獣は姿を消していた。


そうだ、アキラなら何か… 急いで通信を開く。 「アキラ、今すぐ潜れるか?…ああ、いつもの場所で…」 移動を開始した直後、複数の場所で悲鳴が上がった。 近くに駆け寄ると、ポリゴン化して消滅する人の残滓が見えた。 何だ?この進行の早さは… 更に次々上がる悲鳴の連鎖が街に広がっていった。

第九話 バカタール加藤(@bakataal


急がなくては、と焦る僕の足が進まない。 視界が、いや街の様子がおかしい。ふと、足裏の地面の違和感にぞっとする。 暗号世界の構造に変化が生じているのか、僕自身の神経伝達組織が異常を起こしているのかも定かではない。 パキッ、ピシッという鋭い音がそこかしこに響く。 「地割れ?」


暗号世界の道路にも亀裂って走るんだな、なんて悠長なことを考えながら、僕は転倒した。 地面の感触にも、皮膚の痛みにもバグのような違和感がある。 だが、這いつくばりながら、視界の先に黒い何かが見えた気がした。 アキラがいる場所へ「使者」が導びいてくれる。 僕はそう信じることにした。

第十話 安藤武博(@takehiro_ando


エリア一帯を見下ろす超高層建築は、騒ぎが起こる直前に立ったものだ。漆黒の瞳を閉じ込めそうな長い睫毛。腰まで延びた髪。強風に煽られ、遠くからは革命の旗印のようにも見えた。 「私、まったく死ぬ気がしないんだよね。」 「!」 瞬間。ヒルガオとよばれた女性は虚空に身を投げ出した。


「やっぱじゃん。」 ヒルガオは何事もなかったかのように地上に降り立つ。 「それに。」 目抜き通りの中央。少女の可憐さと、女王の威厳。カテドラルの方向を睥睨しながら進む。大胆に開いた胸元に見えるのはTATOOではない。“使者”の能力を持つ者の紋章だ。 「すきな人に会えないとか、無理。」

(以下、2020.9.5 追記)

第十一話 城﨑雅夫 ( @ShirosakiMasao
(※当初矢内景子さんが代わりに投稿されていましたが、城﨑さんはこの直後にtwitterを始められたそうです)


「アタシがどんな苦労してるときも誰も助けてくれないじゃん」 「マジ無理」 「なんでアタシばっかりこんな目にあうの」 「誰とも話したくない」 それは耳ではなく頭に直接入ってくる感じというか データがインストールされたような感覚で僕の脳に入ってきた。


また悲鳴を上げて目を覚ます。 しかしいつもと違う感覚がある。 今まで何度も迎えた最低な朝と共に脳裏に焼き付くあの声。 今日はマリンバの音がならない。おかしい。 周りの景色に目を配る。 あれ?いつもと何かが……違う?

第十二話 矢内景子 @yanaikeiko


「へえ、私の声が聞こえるんだ」 開いているはずのない窓。風に靡く黒髪。 明らかに僕の部屋ではないこの場所に、ヒルガオは立っていた。 「みんな私の声なんて聞こえない。 聞こうともしない。 ただ与えられるのを待ってるだけ」 彼女は淡々と話す。 「フフ…君も好きな人と会えなくなったんだ?」


刹那。見たことのない映像が一気に流れ込む。 これはヒルガオの記憶…? 愛する人を失う恐怖。そして絶望…。 僕の瞼の中でヒルガオが笑った。 その隣にいるのは…アキラ? 呆気にとられている僕に彼女は手を差し出した。 「何してるの?ほら、行きたいんでしょ。 連れてってあげるよ、カテドラル」

第十三話 松山 洋( @PIROSHI_CC2


手に触れた瞬間一気に目の前の空間はゲートと繋がっていた。 虹色のトンネルのような空間の中でボクはヒルガオとアキラと手を繋いだまま浮遊しながら光の奥へと進んでいく。 すれ違う光の粒子が音もなく僕の身体をすり抜けていく。 「ヒルガオの記憶……」 アキラはフッと自嘲した。


降り立った場所はかつて聖域と呼ばれたスクランブル交差点の中心だった。 ズキンッ! 喉の奥の痒さに耐えきれず咳き込むと、空から大量のナイフが降り注いできた。 けれど、もう不思議と不安は無かった。 だって僕は―― 右手を振り上げそっと呟いた。 「このゲームのルールにやっと気づいたんだから」

第十四話 下村 健 (@qualia_shimoken


――負けない! 強固な意志を示すと、ナイフは頭上で止まった。 アキラとヒルガオが微笑み、その姿が重なる。 瞬間、周囲のNPCが赤黒い球体と化し、襲ってきた。 僕とアキラは剣を具現化させ、切り裂きながら扉へ駆ける。 やはり“僕ら”は、コイツらにやられていたのだ……“4月1日”に!


「君となら、同じ今日に、ずっと居たい」 あの日の嘘を繰り返し、アキラが笑って消える。 だけど本物は“あっち”で、泣いてるから。 「でも僕は、君とずっと、進みたい」 扉の前で、言えなかった返事を紡ぐ。 灰色の呪いを解く。 「待ってる」 開いた未来の道… そこから彼女の声が聴こえた気がした

第十五話 イシイジロウ (@jiro_ishii


ついにカテドラルが開いた。その場所に保存されていたのは、失われたあの頃の日常だった。皆が走り出した。歓喜の声を上げて。あの時の栄光。あの時の渇望。「そうだあの時に戻れれば」走り出そうとする僕をヒルガオが止めた。「あれを見て」 愕然とした。走り込んだ人々は次々に崩れて去っていた。


最小単位のポリゴンさえも保持できない意味のない点となって。「そう、私たちはもうあの時の様には生きられない」 振り向くと空から千のナイフが降ってきていた。「ヨルがそこまできている」その時ヒルガオを千のナイフが突き抜いた。アキラがこっちだと僕の手をひく。僕らは走り出した。

第十六話  藤澤 仁(@JIn_Fujisawa


「───理想郷?」 「ああ。人が知性で社会を形成する生物である以上、約束の地を探し求めることは避けられない」 「それでみんな、メーテルリンクに移住した?」  アキラは微笑んで頷いた。 「ウィルスの蔓延した世界を捨てて、船に乗った。けど、知ってたんだな。過去の船は、すべて沈んだことを」


「サービス終了」 僕が言うと、アキラが皮肉っぽく笑う。 「そうとも言う。どんなによく出来たシステムや運営でも、理想郷──メタバースの寿命はいずれ尽きる。そして私たちは元の世界へ追い返される。結局、居場所はここしかない」 僕たちは、スクランブル交差点を見下ろすビルのへりに座っていた。

第十七話  藤澤 仁(@JIn_Fujisawa


ビル下から吹き上げる風が、僕らの体を貫通して過ぎていく。 渋谷のベンチャーが生み出した完璧な仮想世界、メーテルリンク。 ウィルスの蔓延った時代に全世界の支持を集め、元の世界は『旧世紀』となった。 どう生きることが正しいのか、答えを知る人間は一人もいない。 けど、もう決めていた。


「きっと世界には電脳の神様がいて、こう叫んでる。土に根をおろし、風とともに生きよう。種とともに冬を越え、鳥とともに春を歌おう」 「それは、王女様が言うことだ」 「けど、真実を言ってる。私はもう覚悟がついたんだ」 アキラはその場に立ち上がり、僕に手を差し出した。 「この世界で生きよう」


…そして、ついに来週、最終回を迎えます!! 乞うご期待!!

(2020.09.14 追記)

最終話も追記しました。


僕は彼女の手を取り、立ち上がった。 並んで立つと、アキラは小さく感じる。 メーテルリンクの勇敢過ぎるアバターが、彼女の印象を歪めているせいだ。 「どんなボスにでも勝てる気がする」 「ああ」 アキラは、まるで子供みたいに、嬉しそうに、 「勝てるよ。ウィルス攻略なんて、ただの覚えゲーだ」


僕とアキラは、今もウィルスにまみれた旧世紀の渋谷の街を見下ろした。 炎天下の交差点を渡る人々は、ハンディファンの風を汗に当てながら、それでもマスクを手放すことはない。 必死に戦っている姿を見て、僕は確信した。 この厄介な世界に順応した人類が、そろそろ反撃に転じるはずだ──、と。

 また、「LOST SPRING」というプロジェクトそのものについては以下の記事で解説しています。

「LOST SPRING 」ってどんなプロジェクト?

(参考)